暮らし

移住の理想と現実、何が起きているのか

2026年7月8日

ここ数年、「移住」という選択肢が身近になってきました。テレワークの浸透、地方創生の施策、SNSで発信される田舎暮らしの魅力。こうした流れの中で、都市部から地方への移住を真剣に検討する人が増えています。ただし、話を聞いていると、多くの人が「想像していた移住生活」と「実際に起きること」のズレに直面しているようです。何が理想で、何が現実なのか。暮らしや地域に関わることだからこそ、丁寧に考えてみる価値があります。

そもそも何が起きているのかというと、移住者の数自体は確かに増えています。総務省の調査によると、2010年代後半から地方への移住希望者が増加に転じました。その背景には、インターネットの発達で地方での仕事が可能になったこと、都市部の満員電車や高い家賃からの解放を求める人の増加、そしてコロナ禍で「どこでも働ける」という働き方が一気に広がったことがあります。さらに自治体も積極的で、移住者向けの住宅補助や就職支援など、様々なサポート制度が整備されました。つまり、移住を後押しする環境が大きく変わったのです。

移住を前向きに考えている側の声を聞くと、理由は多くの場合、生活の質を高めたいということです。「子どもを自然の中で育てたい」「自分たちのペースで農業をしたり、ものづくりをしたりしたい」「人間関係が濃く、地域とのつながりを感じながら生きたい」。こうした思いは本当に切実です。加えて経済的なメリットも大きい。地方は住居費が安く、同じ給料でも生活に余裕が出る可能性があります。実際に移住に成功した人たちは、「都市部では実現できなかった暮らしが手に入った」と話す傾向が強いのです。

一方、現実はどうか。移住を検討する中で困難に直面する人も少なくありません。まず仕事。テレワークができたとしても、給料が大幅に下がることもあります。また地方によっては、求人そのものが少ないのが実情です。次に人間関係。濃いつながりを求めて移住したのに、実際には「よそ者」扱いを受けたり、地域の慣習や暗黙のルールに戸惑ったりすることがあります。さらに医療や教育、買い物などのインフラ。便利さに慣れた都市部から来ると、その落差に驚くこともあります。加えて、初期費用や家の修繕費など、予想外の出費が嵩むケースも多いのです。移住失敗や「後悔」に関する相談が増えている背景には、こうした理想と現実のギャップがあります。

今後のシナリオを考えると、大きく三つの方向性が考えられます。一つ目は「人口流動の活発化」シナリオ。テレワーク文化がさらに浸透し、生涯一度の大きな移住ではなく、「夏は山、冬は海」といった季節ごとの移動や、数年ごとの小さな移動が当たり前になるかもしれません。その場合、地方も「定住」ではなく「循環人口」を受け入れる姿勢が広がるでしょう。二つ目は「困難の可視化と支援の充実」シナリオ。移住のリアルな困難が広く認識され、移住前研修、トライアルステイ(試し住まい)、メンタリング制度など、より実践的なサポートが増える可能性があります。三つ目は「現実的な選択肢の多様化」シナリオ。「完全移住」ばかりでなく、「二地域居住」(複数の拠点を持つこと)や「ふるさとワーク」(地元の仕事を副業で)といった柔軟な選択肢が広がるかもしれません。

私たちの日々の暮らしや家計にとって、この動きはどういった影響を持つのでしょう。まず不動産市場。移住者が増えている地方では、空き家が活用され、地価が上昇する地域も出ています。一方で、過疎化が進む地域と移住者が集中する地域の格差が広がる可能性も考えられます。次に地域コミュニティ。新しい住民と既存の住民の関係構築がうまくいけば、地域は活性化します。でもそこには相互理解と調整が必要です。自治会の在り方やルール作りなども、変わることを求められるでしょう。さらに個人の家計という視点では、移住で生活費が削減できる人がいる一方で、修繕費や通勤費の増加で支出が増える人もいます。大切なのは、自分たちの人生設計にとって移住がどういう意味を持つのかを、客観的に見つめることなのです。

移住は、人生の大きな決断です。理想だけでも、悲観的なリアルだけでも判断を誤ります。大事なのは、何度も足を運ぶ、地元の人と話す、移住経験者に相談する、といった地道な準備を通じて「自分たちにとって本当は何が必要か」を問い直すことではないでしょうか。移住が万能な選択肢ではないからこそ、その先にある充実した暮らしは、より価値あるものになるのだと思います。

この記事はMACHI.編集部が中立的な立場で執筆しています

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