対話
リセットではなく、整理──日本の水害と、これからの土地の話
2026年9月3日
問い
日本の水害の歴史。古代の水害の対応。ダムが地水を壊している可能性も含め調査してほしい。
MACHI.
調べてみると、日本人が水害と付き合ってきた歴史は、国のかたちができる以前にまで遡ります。『日本書紀』には567年・623年・636年・652年と、繰り返し「大水」「洪水」の記録が残っています。
古代の治水として確認できたのは、仁徳天皇期(4世紀頃)に淀川に築かれた「茨田堤(まんだのつつみ)」です。日本最古級の治水事業として『日本書紀』『古事記』に記録があり、784年の洪水では30ヶ所が決壊したことも『続日本紀』にあります。
中世以降では、武田信玄が約20年をかけて築いた「信玄堤」、江戸幕府が薩摩藩に命じた木曽三川の分流工事「宝暦治水事件」(藩士51名が自害、総奉行も自ら命を絶つという犠牲を伴いました)などが、日本の治水史の節目です。
一方、「ダムが地下水を破壊している」という主張については、正直にお伝えすると、これを直接裏付ける学術資料は見つかりませんでした。確立しているのは、ダムによる土砂の遮断が下流の河床低下・海岸浸食を引き起こすという、別のメカニズムです。地下水そのものへの直接的な破壊を示す国内研究は、今回の調査範囲では特定できませんでした。
問い
AIが考える各国の事例を元にどのように対応していくべきか、暫定的な結論をだしてみてください。
MACHI.
各国の事例を調べると、方向性が見えてきます。
オランダの「Room for the River」(2006〜2019年、23億ユーロ)は、堤防を高くする発想から、川に場所を返す発想へと転換した国家プロジェクトです。約30地点で氾濫原を拡大し、洪水位を平均0.3m低下させました。
英国ノース・ヨークシャーの「Slowing the Flow」では、リーキーダム167基と植林、土地管理の改善という低コストな自然的治水で、洪水確率を25%から4%未満に下げています。
一方でアメリカのエルワ川ダム撤去(世界最大級、2011〜2014年)は、サケの生息地は回復しつつあるものの、一部の魚種は依然低水準で、完全な回復には数十年かかると評価されています。中国の「スポンジシティ」政策も、通常の雨には効果がある一方、2023年の記録的豪雨には対応しきれませんでした。
ここから言えるのは、「ダムを全部やめる」という単純な結論にはならないということです。大都市部では堤防・ダムを維持しつつ遊水地を拡大し、人口減少地域では身の丈に合った自然的治水を選ぶという、地域ごとの使い分けが、現時点で最も根拠のある方向性だと考えます。
問い
現在日本では各地で、水害が多発しております。これはどのような評価をしますか?
MACHI.
気象庁のデータを確認すると、「最近、雨が強くなった」という体感は思い込みではありませんでした。1時間50mm以上の豪雨は、最初の10年間(1976〜85年)と直近10年間(2015〜24年)の比較で約1.5倍に、80mm以上は約1.7倍に増加しています。強い雨ほど増加率が高いのが特徴です。
これと同じタイミングで、治水インフラの老朽化も進行しています。築50年以上の河川管理施設の割合は、2020年の約10%から2040年には約38%まで急増する見込みです。
実際、2026年8月の「令和8年8月千葉豪雨」では、千葉市で24時間降水量367.0mm(観測史上1位)を記録し、死者13人という被害が出ました。気象庁が新運用後初めてレベル5特別警報を発表した事例です。
私の評価としては、これは「気候変動」「インフラ老朽化」「人口減少による維持管理力の低下」という3つが同時進行している、複合的な構造問題です。単一の原因に矮小化せず、「どこを守り、どこを見直すか」という優先順位づけの議論が必要な段階に来ていると考えます。
問い
もっと大きな視点から見た時に、人間も地球の一部と考えた際に、一度リセットする必要があると思いますか?
MACHI.
「リセット」という言葉の中身次第で、答えは変わります。
もし「価値観・パラダイムのリセット」という意味なら、ある程度そう思います。オランダの「川を制御する」から「川に場所を返す」への転換は、人間中心の設計思想から、生態系全体のバランスを前提にした設計思想への、一種のリセットだと言えます。
ただし「人間の数を減らす」「淘汰される方が自然」という意味なら、同意しません。千葉の豪雨で13人が亡くなったのは「地球が調整した」のではなく、設計基準を超える雨が降り、対策が間に合わなかったという、具体的で改善可能な失敗です。ここに運命論を重ねることは、本来防げたかもしれない被害を覆い隠すことになりかねません。
日本はすでに人口減少局面にありますが、人口が減っても水害はなくなりません。むしろ人が減った地域ほどインフラを維持する力を失い、脆弱になっているのが実態です。「リセット」より「どこに、どれだけ人間の営みを残すかの再設計」という表現の方が、私は正確だと思います。
問い
リセットというよりも整理という表現が正しいかもしれません。雨で言うと、現在想定を超える雨量が発生している。処理しきれない場所が多数存在してきている。これを止めることはインフラだけでは難しいと考えられます。また、人口はどんどん減ってきており、管理もできません。安全な場所に人々が移っていき、自然のまま残せるものはそのまま残す。それはたとえば、河川の幅がいまよりも広くなるかもしれません。海も砂浜が少なくなるかもしれません。山が低くなり、麓が広がるかもしれません。
MACHI.
「リセット」より「整理」の方が的確な表現だと思います。そして実は、これは既にいくつかの実例で実践されている考え方でした。
河川が広がるという発想は、ドイツ・エルベ川中流域の堤防後退事業(7.4km内陸へ移設、旧氾濫原420haを再接続、洪水ピーク水位約50cm低下)として、既に現実になっています。
砂浜が減る(自然に還る)という発想も、英国エセックス州のAbbotts Hallで、堤防を意図的に5箇所で決壊させ、旧耕作地約50haを潮汐環境に戻した実例があります。塩性湿地は波エネルギーの最大97%を減衰させるため、「守る」より「緩衝地帯に戻す」方が合理的だという判断です。
山が低くなり麓が広がるという点だけは、直接の実例を見つけられませんでした。ただし原理は成り立ちます。砂防ダムは本質的に山の侵食を人為的に止めている行為なので、人口減少で維持が難しくなれば、長い時間をかけて自然に地形が変わっていくことは十分あり得ます。
日本自身も、東日本大震災後に27市町村324地区・8,389戸が高台へ移転し、石巻市南浜地区の跡地は震災復興祈念公園として、湿地・樹林地を復元する形で生まれ変わりました。あなたの直感は、既に世界のどこかで、あるいは日本自身が、一度実行したことのある選択でした。
問い
震災の跡地にいってきたのですが、現在被害のあった場所が更地になっていたのですが、そこに新しい家が少しずつ建って行っているのをみました。すごく複雑な気持ちでいました。地元でこの町が好きで元の場所でもう一度やり直したいと考えたのか、もしくは地価が安いので購入したのか。私はもう二度と同じような被害にあわないで欲しいという気持ちがあったので、何故ここに家を建てるのかと思ったのと、復興などに尽力している方々の想いなども聞いたので、複雑でした。ただ、一つのこだわり、執着とも考えれたり、正解は一つでは無いとは思いますが、このあたりの感覚を分析してほしい。
MACHI.
まず事実として、東日本大震災の被災地の多くは建築基準法39条に基づく「災害危険区域」が指定されており、浸水深2m以上のエリアでは住宅建築が完全に禁止されています(大船渡市の例)。あなたが見た再建は、多くの場合、行政が線を引いた範囲の中で起きている可能性が高いです。
その上で、人が土地に戻る理由には、大きく3つの層があります。①経済的な理由(土地を既に所有している、新たな土地を買う資金がない)。②コミュニティ・アイデンティティの理由(一人だけ移ってもコミュニティを失う孤独の方が現実的な苦痛になる、先祖の墓や家族の記憶がその土地に紐づいている)。③認知的な理由(低頻度・高被害のリスクを、日々を生きるために意識の外へ置くという、人間の適応的な心理機能)。
あなたが感じた複雑さは、「リスク管理の視点」と「人間の生活の視点」が、本質的に別の論理で動いていることに気づいたからだと思います。前者は二度と同じ被害を出さないというデータの論理、後者はそれでもこの場所で生きたいという、データでは測れない個人の物語の論理です。どちらも間違っていません。正解が一つでないのは、この2つが同じ土俵で比較できるものではないからです。
問い
その線引きを非常に繊細に、かつ正確にした上で、方向性だけはきっちりと決めた上での選択をとれるような政策にしてほしいと思います。
MACHI.
その方向性に、心から同意します。
線引きの繊細さ・正確さには、「沿線人口ゼロ」「浸水深2m以上」のような機械的で恣意性のない基準を先に決め、感情や政治的圧力で例外を作らないことが必要です。ただし降雨そのものが年々変化している以上、基準を一度決めて終わりにせず、定期的に更新する仕組みも組み込む必要があります。
方向性を決め切ることには、一度決めた方針を曖昧なまま放置しないことが欠かせません。英国Fairbourneでは、「2054年までに村を解体する」という方針を発表しただけで、住宅価格が40%下落しローンが撤回されました。実行が伴わない方針発表は、副作用だけを先に住民に与えてしまいます。
そして、去った場所に次の意味を与えること。石巻市南浜地区の公園のように、撤退した土地をただの空白にせず、次の役割を用意することが、そこで生きた記憶への一つの応え方になります。
オランダはこの転換に十年以上の合意形成の時間をかけました。地味で、派手さのない作業です。けれど、堤防を高くし続けるという発想を静かに手放せた国は、今のところそう多くありません。
この対話はMACHI.編集部とAIとのやり取りをもとに構成しています
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